トランプ大統領のグリーンランド買収構想の本質 温暖化が変える米国の安全保障 グリーンランド氷床下のアメリカの極秘軍事施設「キャンプ・センチュリー」とは?
記事のポイント
グリーンランド買収構想はトランプ大統領の思いつきというよりも、温暖化で北極海航路と資源・軍事価値が高まる中、米国が主導権確保を狙う地政学的戦略の中で生まれた。
米国は冷戦期から防衛拠点として、グリーンランドにおける関与を重視してきた。
グリーンランドにも、デンマークとの植民地の歴史、米軍基地の負の遺産などの問題を抱えている。
北大西洋の要衝に位置するグリーンランドは、レアアースなどの戦略資源を有し(2)、米国にとって安全保障上の価値が高い。つまり買収構想は、単なる経済的打算を超え、21世紀の国際秩序を見据えた米国の戦略的再編を象徴する動きともいえる。
実際、北極圏をめぐる競争は激化している。ロシアは北方艦隊を強化し北極海航路の支配力を拡大(3)し、中国も「氷上のシルクロード」構想を通じて関与を強めている(4)。米国がグリーンランドを通じた恒常的なプレゼンスを確立できなければ、極地における主導権を失いかねないという危機感もある。
もっとも、グリーンランドはデンマークの自治領であり、同盟国との関係を無視した行動は国際的反発を招く。一方、アメリカは、すでにチューレ空軍基地を北極圏防衛の拠点として運用しており(5)、米国の関与が現時点でも継続中であることも確認すべきだ。
(2)米国がグリーンランドに関心を持つ背景 ~温暖化で増す海上輸送と資源確保の戦略的な重要性~ | 田中 理 | 第一生命経済研究所. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.dlri.co.jp/report/macro/560870.html
(3)ロシア、北極圏で軍事力強化 米中に優位保つ. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://jp.wsj.com/articles/russian-military-seeks-to-outmuscle-u-s-in-arctic-11622001305
(4)北極圏、安全保障の重要地点に 「氷上シルクロード」構想 高まる中露の存在感. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.sankei.com/article/20260111-OJSWM55ENVOCJNUKKK2GMN6W5U/
(5)グリーンランド取得へ強い意欲を示すトランプ政権 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI). (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.nri.com/jp/media/column/kiuchi/20260109.html
実は100年以上前から 米国のグリーンランド取得構想の歴史
アメリカがグリーンランドに強い関心を示している理由としては、単なる領土的欲求を超えた地政学的な理由もある。グリーンランドは北米大陸の延長線上に位置し、北極海を隔ててロシアと向き合う戦略的要衝の土地であり、冷戦期以来、北米防衛に不可欠な拠点と位置づけられてきた(6)。
さらに、地球温暖化の進行によって北極海航路が現実味を帯びたこと(7)で、この島の軍事的・経済的価値は一段と高まっている。
もっとも、グリーンランド取得構想はトランプ大統領に始まったものではない。1867年のアラスカ購入後、スワード国務長官が買収を構想(8)し、1910年には領土交換案が検討された(9)。1946年にはトルーマン大統領が、デンマークに対して正式な買収を打診している(10)。
その後、冷戦を経て、グリーンランドはロシアや中国からの弾道ミサイルを早期に探知する最北の拠点として(11)、アメリカのミサイル防衛の最前線に位置づけられるようになった。トランプ氏が基地の「賃貸」ではなく、完全な主権確保を主張するのも、この安全保障上の認識に基づく。
さらに、中国が北極海航路を「氷上のシルクロード」と位置づけ(12)影響力拡大を図る中、グリーンランドが中露の勢力圏に取り込まれることは、アメリカにとって看過できない安全保障上のリスクとなる。北極をめぐる主導権争いは、今後の国際秩序を左右する重要な要因となりつつある。
(6)米国がグリーンランドに関心を持つ背景 ~温暖化で増す海上輸送と資源確保の戦略的な重要性~ | 田中 理 | 第一生命経済研究所. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.dlri.co.jp/report/macro/560870.html
(7)氷解する北極海~新たな地政学の前線 | 住友商事グローバルリサーチ(SCGR). (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.scgr.co.jp/report/president/2025093076916/
(8)America’s Long History of Trying to Acquire Greenland. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.history.com/articles/greenland-united-states-seward-cold-war
(9)What are potential ‘hard ways’ Trump could try to take Greenland?. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.aljazeera.com/news/2026/1/10/what-are-potential-hard-ways-trump-could-try-to-take-greenland
(10)FACT CHECK: Did Harry Truman Really Try To Buy Greenland Back In The Day?. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://www.npr.org/2019/08/22/753192368/fact-check-did-harry-truman-really-try-to-buy-greenland-back-in-the-day
(11)グリーンランド問題の核心は「沖縄」に通じる 安全保障を外注した国の行き着く先:日経ビジネス電子版. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00216/011300066/
(12)北極海に持ち込まれた緊迫の世界秩序 融氷でうごめく国益の攻防. (2026). Retrieved 16 January 2026, from https://mainichi.jp/articles/20260103/k00/00m/030/001000c
グリーンランドの植民地の記憶とデンマークからの独立論
グリーンランドとデンマークの関係については、形式上は王国共同体として機能しているものの、植民地支配の歴史と複雑な感情が横たわっている。1721年の宣教師ハンス・エゲデのグリーンランド上陸(11)以降、デンマークの統治は経済的依存と文化的同化を伴って進められ(12)、20世紀には強制避妊や教育実験といった先住民(カラーリット)への深刻な権利侵害(13)も行われた。
このため、自治や独立をめぐる議論が、植民地の記憶と民族的アイデンティティの回復という意味も帯びた。
近年では、グリーンランドでも完全独立を求める声が再び高まり、2025年の議会選挙では独立派政党が支持を拡大した。なお、トランプ政権による「グリーンランド接収論」は島民の自尊心を傷つけた一方、「米国に吸収されるよりは、デンマークの下で自治と人権を守るほうが現実的だ」という判断も広がった。
2025年の世論調査では、住民の85%が米国への吸収に反対している(14)。米国の強硬姿勢が、結果的に独立派を含むグリーンランド島民の間でデンマークとの関係を強化させた形となった。
(11)Greenland - Viking, Inuit, Colonization | Britannica. (2026). Retrieved 17 January 2026, from https://www.britannica.com/place/Greenland/History
(12). (2026). Retrieved 17 January 2026, from https://english.stm.dk/media/4vgewyoh/gl-selvstyrelov-uk.pdf
(13). (2026). Retrieved 17 January 2026, from https://english.stm.dk/media/4vgewyoh/gl-selvstyrelov-uk.pdf
(14)Opinion poll in Greenland, January 2025. (2026). Retrieved 17 January 2026, from https://www.veriangroup.com/news-and-insights/opinion-poll-greenland-2025
グリーンランド氷床下の米軍基地 深刻な環境問題を引き起こす
グリーンランドの氷床下には、冷戦期に米国が建設した極秘軍事施設「キャンプ・センチュリー」が存在する(15)。1959年、極地研究を名目に設置されたこの基地は、「プロジェクト・アイスワーム」と呼ばれる大陸間核ミサイル配備構想の試験拠点でもあった(16)。
米国は氷床の安定性を利用し、地下に広大なトンネル網を構築して移動式核兵器の展開を目指したが、氷床の想定外の変動や技術的制約により計画は頓挫、基地は1967年に放棄された(17)。
だが、基地の跡地には放射性物質やPCB、燃料などが残されたまま半世紀以上が経過し、地球温暖化による氷床融解によって、これらが露出・流出する現実的な危険が高まっている(18)。
厄介なのは、問題の責任の所在が不明確な点だ。建設当時、グリーンランドはデンマークの統治下にあった一方、施設は米軍が独自に設置・運用したものであり、除染費用や国際的責任をめぐる協議が停滞している(19)。
(15)CAMP CENTURY EVOLUTION OF CONCEPT AND HISTORY OF DESIGN CONSTRUCTION AND PERFORMANCE. (2026). Retrieved 18 January 2026, from https://apps.dtic.mil/sti/citations/AD0477706
(16)Melting Ice In Greenland Could Expose Serious Pollutants From Buried Army Base. (2026). Retrieved 18 January 2026, from https://www.npr.org/sections/thetwo-way/2016/08/05/488872411/melting-ice-in-greenland-could-expose-serious-pollutants-from-buried-army-base
(17)Secret Cold War base shifts through Greenland ice. (2026). Retrieved 18 January 2026, from https://www.bbc.com/news/blogs-news-from-elsewhere-49209510
(18)Camp Century: Put on Ice, But Only for So Long. (2026). Retrieved 18 January 2026, from https://science.nasa.gov/earth/earth-observatory/camp-century-put-on-ice-but-only-for-so-long-89515/
(19)Denmark and Greenland Agree on Cleaning Up Former American Bases. (2026). Retrieved 18 January 2026, from https://www.highnorthnews.com/en/denmark-and-greenland-agree-cleaning-former-american-bases
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